今夜どこ行く?って聞いたら、なんでもいいよ。じゃあ何食べたい?きみに合わせる。この会話、今月だけで何回目だろ。
恋愛系のショート動画を企画する仕事で友達や知り合いの恋バナを月に何十人分も聞いてる。ここ一年で確実に増えたのが、意見を言わない恋人に疲れた、優しいはずなのにずるいとすら感じてしまう自分が嫌だ、という声だった。
深夜のファミレスで、彼の何が嫌なの?と聞いたら、嫌なところがないのが嫌、動画のコメント欄も同じでさ。なんでもいいは思考の放棄だよね、という書き込みに共感が集まったこともある。
なんでもいいをずるいと感じる
決めた人だけが失敗の責任を背負う
旅行の行き先、記念日の店、ケンカの落としどころ。何かを決める行為は、外したときの責任を引き受けることとセットになってる。決めない人は永遠にノーリスク。この非対称、気づいた瞬間からじわじわ効いてくるから厄介。
大学からの友達ミカの話をさせて。付き合って二年の彼が筋金入りのなんでもいい星人で、温泉旅行の宿も電車も食事処も、結局ぜんぶ彼女が手配したらしい。で、当日。湯上がりに彼がぽろっと言ったんだって。
「ここ、けっこう混んでるね。海側の宿でもよかったかも」
ミカの顔から表情がスッと消えた場面を想像したら、聞いてるだけの私まで胃の奥がギュッとなった。決めてないのに評価だけはする。世に言う後出しってやつで、刺さり方がえぐい。本人に悪気がないことも多いから、責めた側が心の狭い人にされるからたちが悪い。
しかもこれ、大イベント限定じゃないからね。今夜どうする?のLINEに、なんでもいいよのスタンプ。作ったら作ったで、あ、昼もパスタだったんだよなぁ、が飛んでくる。小さい一撃の積み重ねがボディーブローみたいに効く。
嫌われ役はいつもこっちに回ってくる
二人でいれば、予約を断る、友達の誘いを蹴る、言いにくい本音を切り出す、そんな場面が必ず来る。意見を言う側が一手に引き受けて、相手はずっとニコニコのいい人ポジション。周りからは、彼って穏やかだねぇ、彼女はしっかりしてるね、なんて評されたりして。
いや、私が動かなきゃ何も進まないんだが?この心の声、リサーチ中に何回聞いたかわかんない。友達カップルとの旅行で部屋割りがモメたとき、調整役は最初から最後まで自分だったのに、終わってから相手が口にしたのは、お疲れ、だけ。お疲れじゃなくて、一緒に疲れてほしいのよ!と叫んだ子もいた。決定権という名の雑用と、悪者役のセット販売。降りられないまま続けていると、好きという気持ちより先に肩の力が尽きてくる。
ずるいの裏に隠れているのは寂しさ
意見を言わないことを突き詰めると、本音を見せないということになる。好きなものも嫌なことも教えてくれない人と、どう深まればいいわけ?
ヒアリングした三十歳の子は、五年付き合った彼の好きな食べ物を最後まで知らなかったと話してた。何が好き?と聞くたびに、きみと食べればなんでも、と返ってくる。優しい台詞のはずなのに、聞くたび心がスースー冷えていったらしい。
ずるいという感情の三割くらいは、実はこの不安でできてる。私はこの人に信頼されていないのかもしれない、という寂しさが、怒りの形を借りて出てくるの。だからイラつくあなたのセンサーは壊れてない。
意見を言わない人の頭の中で起きていること
責めるだけだと一歩も進まないから、言わない側の内側も見ておこう。企画づくりでは言えない側の人にも話を聞いてきた。
嫌われたくなくて言葉を飲み込むタイプ
意見がぶつかった瞬間に関係が終わる気がして、口に出す前に消しちゃう人。本人の中では、合わせること自体が愛情表現だったりする。優しさの方向音痴とでも言うのかな。愛は確かにあるのに、届け方がズレてる。
否定された記憶がブレーキになっているタイプ
チームの後輩がまさにこれだった。元カノに、あなたって自分がないよねと言われてフラれた過去があって、深掘りしていったら、小学生のころ授業中の発言を教室中に笑われた記憶まで遡った。以来、何か言おうとすると心臓がドッドッと速くなって、これ言って大丈夫か?という検閲が先に走るんだって。黙ってる方が安全だと体が覚えてる、と表現していたのが忘れられない。
欲しいものセンサーが錆びているタイプ
ずっと親や周りに合わせて生きてきて、何が食べたいか聞かれても本当に何も浮かばない人もいる。サボってるんじゃなく、自分の欲を感じ取る回路そのものが錆びついてる状態。このタイプはやる気の問題に見えて、本人がいちばん途方に暮れてたりする。
悪気の濃さはタイプで変わる。共通するのは、決定とリスクがあなた側へ寄り続けている事実。そこは遠慮なく問題にしていい。ちなみに見分けるヒントは反応速度に出る。二択にしたら即答できるなら飲み込みタイプ、長考の末に小声で出てくるならブレーキタイプ、二択でも固まるならセンサー型。次の台本を回すとき、観察もセットで。
今日から試せる、意見を引き出す台本三本
ショート動画の台本を書く要領で、そのまま口に出せる形にした。先にひとつ注意があって、なんで言わないの?と詰める聞き方は逆効果。相手の中の検閲が強化されるだけだから封印で。
一本目、質問を二択まで絞る
何食べたい?は、言えない人にとって難易度最高クラスの問いでさ。無限の選択肢が真っ白な画面みたいに見えてるの。だから先に絞ってあげる。
あなた「肉と魚、今夜はどっちの気分?」 相手「えー、どっちでも…」 あなた「私は肉寄り。三秒で直感、どっち!」 相手「…じゃあ魚、かな」
出た、記念すべき初意見!ここで、いいね魚にしよ、と即採用するのが肝。言ったら採用された、という成功体験を小さく積ませる。三秒と区切る理由は、考える時間をあげるより正解探しを締め切る方が口が動くから。じっくりどうぞ、は逆に固まらせる。
二択でもなお、どっちでもが返ってきたら、じゃあ私が決めるから拒否権だけあげる、と切り返す手もある。嫌じゃない方を選ぶのは、欲しい方を選ぶよりだいぶ軽いの。ミカがこの二択作戦をひと月続けたら、彼の方から、来週あの店行かない?が出たって。ピタッと歯車が噛む瞬間、ちゃんと来るよ。
二本目、沈黙を十秒だけ待つ
言えない人が口を開くまでには助走がいる。なのに三秒で、じゃあこれでいいよね?と埋めてきたのかも。よかれと思った先回りが、相手の考える時間を奪い続けてた可能性もあるわけ。
実際、考えがまとまる前に次の言葉が飛んでくるから諦める。そんな声が言えない側から複数出てた。沈黙はプレッシャーじゃなくて滑走路。そう捉え直したうえで、質問したら十秒黙る。正直、気まずい。スマホを見たくなる。それでも待つ。心の中で、いち、に、と数えるとちょうどいい。十まで数え終わる前に、ぽつりと言葉が落ちてくることが多いから。たったこれだけで返ってくる率が変わったと、試した子たちが口を揃えてた。
三本目、決定権と免責をセットで渡す
あなた「次のデート、丸ごとプロデュース任せていい?私、文句言わない縛りでいくから」
効くのは後半の宣言の方。失敗しても責められない安全圏を先に見せると、動ける人はちゃんと動き出す。協力してくれた別のカップルは、この免責つき丸投げを月一の恒例行事にしてた。彼が選んだ店が微妙でも笑い話で終わる空気が、次の意見を生むんだとか。これでもなお丸投げが続くなら、それは言えないのではなく考えたくないだけ、という線が濃くなってくる。
番外編、限界の日のひと言
台本を回す余裕すらない夜もある。そういう日は、責める成分を抜いたこの一本だけ持って帰って。
あなた「決め疲れしちゃってて。今日は決めるの、代わってほしいな」
人格に話を広げず、今日のこの場面の希望だけを渡す形。あなたはいつも意見がない、まで言うと戦争になるけど、これなら受け取りやすい。言い方を変えてから空気が壊れなくなった、という報告は多かったよ。ミカもこのセリフだけは初日から使えたそう。返ってきたのは、え、そんなに疲れてたの、という反応。気づいてすらいなかったの!腹は立つけど、悪意じゃなく無自覚だとわかるだけでも、次の打ち手が変わる。
言えない側のあなたへ、その沈黙はこう見えてる
ここまで読んで頬がカッと熱くなった人、いるんじゃないかな。これ、私のことだって。
合わせてるのに、なんでずるい呼ばわりされなきゃいけないの?という苦しさも聞き取りで散々耳にした。どっちの言い分も本物なんだよね。ただ知っておいてほしいのは、あなたの沈黙は優しさのつもりでも、相手の目には責任の置き去りに映るということ。隣で一緒にハンドルを握ってほしいのに、ずっと助手席で寝られてる感覚、と言った子もいた。
黙る戦法は長期では自分も削る。合わせ続けた不満は消えずに溜まって、ある日ささいなきっかけで爆発する。相手からすれば、なんで今?って話になる。意見をこまめに出すことが、関係の決壊を防ぐ堤防になるの。
三秒ルールで始める意見の筋トレ
練習はミニサイズでいい。同僚にランチどうする?と聞かれたら三秒以内に店名を出す。映画の感想を、面白かったの一歩先まで言う。あのシーンで泣きかけた、で十分。対面だと固まるなら文字から。気になる店のURLを、ここ行ってみたい、を添えて送るだけでも立派な意見表明だし。コツは結果を求めすぎないこと。採用されるかは相手の領域で、口に出すまでがあなたの担当。ここを分けると外すのが怖くなくなる。
恋人相手なら、ズレてたらごめんね、を頭につけると口が軽くなると後輩は言ってた。彼はこの練習を半年続けて、今の彼女から、ちゃんと意見をくれるから安心する、と言われたみたい。報告してきたときの顔、ちょっとドヤってた(笑)

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