「これ、脈ありだと思う?」
渋谷のカフェで、友人のアヤが嘆く。
恋愛系のショート動画を作っているチームでのこと。マッチングアプリのメッセージを題材にした企画が持ち上がってさ。トーク画面を見せてもらいながら、話を聞いたんだよね。
アヤのやり取りは三週間、ほぼ毎日続いていた。相手の男性は文章が長くて丁寧。今日の仕事、行った店、観た映画。
でもさ。
スクロールしながら、ある違和感に気づいた。彼の文章に、アヤへの質問がひとつもない。
ピロン、と通知が鳴る。同じ彼からで、今日は寿司を食べたという報告。アヤの頬がゆるむ。
あぁ、これは…言いにくいなぁ
同じ週、後輩のダイキからは真逆の相談を受けていた。三十人とマッチングして、返事が返ってきたのは四人。しかも全員が二往復で終わる。
続く側と続かない側。悩みは正反対に見えるじゃん。
ところが取材を重ねるほど、二人が知りたいことは同じ一点に集まっていった。
続かないも続くも、悩みは同じ
続かない人が本当に聞きたいこと
続かない、と嘆く人が欲しいのは会話のコツじゃない。
自分に魅力がないから止まったのか、それとも相手側の事情なのか。その切り分けができないから苦しい。
続く人が本当に聞きたいこと
会話が弾んでいるのは、自分が本命だからなのか。それとも暇つぶし相手の一人なのか。同時進行が前提の世界で、確証だけがない。
二つの行き着く場所
どちらも、この人に時間と気持ちを賭けていいのか、そして自分は選ばれる側にいるのか。この二つを知りたい。
メッセージが続く続かないは、相性の判定結果じゃない。温度計の読み方を知らないまま、数字に一喜一憂している状態に近いわけ。
続く人にも続かない人にも、同じ地図が使える。
メッセージが続かない原因は三つに分かれる
ダイキのトーク画面を順に見ていって、最初に目についたのが一通目。
「はじめまして!よろしくお願いします!」
これだけ。三十人全員に、ほぼ同じ文面だったし。
受信箱には、この手の定型文が何十件も並ぶ。その中で返信の順番を上げてもらうには、条件がある。あなたのプロフィールを読みましたよ、と一目で伝わる一文。
自分起因、質問攻めと即レスと自分語り
一通目を直したあとも、ダイキは二往復で止まっていた。
理由は三つ。一通に質問が三つ入っていて、相手が面接を受けている気分になる。返信が来た瞬間に返すから、相手のペースを追い越して圧になる。相手が趣味の話をしても、すぐ自分の話に持っていく。
「え、俺そんなつもりないっすよ(笑)」
そう言いながら画面を見返すダイキの耳が、赤くなっていく。
わかる。私も昔やってた
質問はひとつに絞る。相手の返信の間隔に合わせる。相手の話にまず反応してから、自分の話を少しだけ足す。
質問、共感、自己開示。この順番を守れている人のトークは、話を聞いた範囲では揃って長く続いていた。
相手起因、同時進行と優先順位
一通目も送り方も直したのに止まる相手がいる。
これは相手側の事情が大きい。同時に五人とやり取りしていて、その中で優先順位が下がった。仕事が立て込んで、アプリ自体を開かなくなる。単にメッセージが苦手で、会って話す方が得意なタイプ。
返信をやめた側の女性にも、理由を聞けた。意外と多かったのが、嫌いになったわけじゃなくて、他の人と会う予定が入って気持ちがそっちに流れた、という答え。
こっちの人格の話じゃないんだよね。順番とタイミングの話。
相性起因、あなたのせいじゃないケース
三つ目がいちばん見落とされる。
送り方に問題がなく、相手も真面目に返してくれている。なのに、なんか噛み合わない。ボケたのに拾われず、こっちが盛り上がる話題で向こうのテンションは横ばい。
これは相性の話であって、直すべき欠点じゃない。
ダイキの返信は、一通目を直した翌週に四人から九人に増えた。でも九人全員と続いたわけじゃなくてさ。続いたのは三人。残りは相性で落ちた、と割り切っていいライン。
続かない相手を全員自分のせいにすると、直さなくていい部分まで削ることになる。そこで自信が減っていくのが、いちばんもったいないパターンなんだよなぁ。
続く人は相性がいい?脈ありと社交的なだけの見分け方
アヤの話に戻る。
三週間続いた彼は、結局、誰にでも長文を送るタイプだった。
判明したのは、彼が何気なく「昨日会った人が」と別の相手の話を出したとき。アヤはその場で笑ってたけど、テーブルの下で指がスカートの生地をぎゅっと掴んでいた。
まさか日記の送り先だったとは、ね。
続く理由は四つある
メッセージが続く理由は、本命だから以外にも三つある。
暇つぶしの相手としてちょうどいい。もともと誰にでも社交的でマメ。同時進行している数人のうちの一人で、まだ絞っていない。
続いているという事実だけでは、この四つが区別できない。
区別できるのは、文章の中身。
文字に出る脈ありサインは四つ
脈ありだった相手のトークを並べると、共通点が四つ見えた。
こっちへの質問が多い。仕事や趣味だけじゃなく、休日の過ごし方とか子どもの頃の話とか。答えるのに少し時間がかかる質問が混ざる。
自分から先に弱い部分を開示してくる。失敗談とか、実は苦手なこととか。
行きたい場所の話に、さりげなくこっちを含める。あの店は一緒に行ったら楽しそう、みたいな匂わせ。
そして返信の温度。遅れる時に理由を添えてくる。今日は遅くなります、明日ちゃんと返します、の一言があるかどうか。
アヤの彼には、四つのうちひとつもなかった。長文で毎日でも、質問ゼロ、匂わせゼロ。
会話の相性と恋愛の相性は別物
ここで相性という言葉をほどいておきたい。
メッセージが弾む相性は、会話の相性。言葉のテンポ、笑いのツボ、話の広げ方が合っている。
恋愛にはそこに、価値観の相性と生活リズムの相性が乗ってくる。お金の使い方、家族との距離、休日に人と会いたいか一人でいたいか。文字のやり取りで見えるのは、三層のうち一番上だけ。
会話の相性がよくて会ったら違った、という話は五人から出た。逆に、メッセージは淡白だったのに会ったら三時間話し込んだ、という人も二人いたし。
文字で確かめられる相性には天井がある。続くことをゴールにすると、判定できないものを判定しようとして、時間だけが溶けていく。
続くのに会えないのは、心地よさが安全地帯になるから
友人の紹介で話を聞いた三十一歳の男性、ケンタの話が、この企画でいちばん刺さった。
ある女性と二か月、毎日やり取りしていたそうで。
誘わなかったんですか、と聞いたら少し間があって、壊したくなくて、と返ってきた。
会って幻滅されるより、このままの距離が心地いい。誘って断られたら、毎日の楽しみが消える。だから誘えない。
二か月目の終わり、彼女から届いたのは一通きり。他の人と会うことになりました、今までありがとう。
その話をしている時のケンタは、笑っていた。なのにコーヒーカップを持つ手が途中で止まって、そのまま置いた。あの時誘っていれば、とは一度も口にしなかった。
誘ってこない相手の心理は五つに絞れる
自分が待っている側なら、相手が誘ってこない理由はこの五つ。
誘って壊すのが怖い。同時進行の別の人と先に会っている。そもそも本気度が低い。ペースが違っていて、まだ早いと思っている。誘われるのを待っている。
どれなのかは文字だけでは判別できない。判別できないものを、待ちながら推理し続けるのが一番消耗する。
誘えない自分の心理は、ケンタの話がそのまま答え
自分が誘えない側なら、ケンタの二か月を鏡にしてほしい。
誘って壊れる関係は、誘わなくても二か月後に壊れる。相手は他の誰かと会う。こっちが安全地帯を守っている間に。
会うところまで進んだ人たちが誘ったタイミングを聞いてみた。やり取り開始から一週間から十日、通数なら十往復前後。ここより早いと軽く見られ、ここより遅いと相手の温度が下がり始める。二十人程度の話から出た目安ではあるけど、正直言って二か月は遅すぎた。
いきなり会うのが怖いなら通話を挟む
会うハードルが高いなら、十分だけ電話、を間に置く。声を聞くと、文字で盛り上がっていた相性が本物かどうか、会う前にかなり見当がつく。
通話で違和感があれば、会う前に引ける。通話で楽しければ、会う約束はほぼ自然に決まるよ。
途切れた、既読スルーされた時にやること
三十歳の友人ミホは、十日続いた相手から突然返信が来なくなった。で、三日で三通の追いメッセージ。
返事遅くてごめんね。何かあった?忙しいよね、無理しないでね。
三通目を送った夜、ロック画面を何度も開いては閉じて、気づいたら朝の四時。目の下に薄い影を作ったまま、翌日そのトークのスクショを送ってきた。
「はぁ…これ、やりすぎだったよね(泣)」
途切れる理由は人格じゃなくタイミング
続かない原因のところで書いた、相手起因の中身を思い出してみる。
他の人と会う予定が入った。仕事で開く余裕がない。単純に忘れた、というのもある。
止まった理由の大半は、あなたが誰であるかとは無関係なところで起きている。それでも既読のまま止まった画面を見ると、心臓がドクンと一回大きく打つ。そのあと胃のあたりが重くなる。人格を否定された感覚は、理屈で消えないっしょ。
だから理屈じゃなく、行動の型で守るんだよ。
追いメッセージは一通だけ、三日から五日あけて
追うなら一通。間隔は最低でも三日、長くて五日。内容は相手を責めず、返しやすい形にする。
お仕事忙しそうですね。落ち着いたらまた話せたら。
これで返ってこなければ、そこで終わり。二通目は送らない。ミホのように三通重ねると、返ってきたとしても、相手の中で圧をかける人という印に変わる。
ちなみにミホの彼からは、一週間後に「立て込んでました」と返ってきた。理由はそれ以上わからない。本当に忙しかったのか、他の人が流れたのか。相手にしかわからないことは、わからないままにしておく。
引きずらないための考え方
途切れた相手を、失敗ではなく一件のデータとして扱う。
何通目で止まったか、直前の話題は何だったか、質問攻めになっていなかったか。
これを三人分並べると、自分側の癖が一つは見えてくる。癖が見えれば直せるし、見えなければ相性が合わなかっただけ、と片づけられる。どちらに転んでも、次の一通が少し軽くなるじゃん。
今日からの台本、送る言葉をそのまま書く
動画の台本のつもりで、送る文面をそのまま。
一通目から三通目まで
一通目。相手のプロフィールから要素をひとつだけ拾う。
「はじめまして。プロフィールの週末はほぼサウナっていう一文で、思わずいいねしました。私も最近ハマってて、推しの施設とかありますか」
質問はひとつ。自分の話は一文だけ。
二通目。相手の返信に、まず反応する。
「〇〇ですか!行ったことないです、水風呂がかなり冷たいって噂の。私は家の近くの古いところばっかりで、ちょっと開拓したくなってきました」
ここでは質問しない。反応と、小さな自己開示だけ。相手が聞き返してくれたら、そこから会話が往復し始める。
三通目以降は、相手の返信間隔に合わせる。向こうが夜に一通なら、こっちも夜に一通。朝に即レスはしない。
会う約束に持っていく台本
やり取り開始から一週間前後、十往復あたりで切り出す。
「話してて楽しいので、今度〇〇のあたりで軽くお茶しませんか。来週の平日夜か土曜の昼だと、空いてる日ありますか」
日程は二択で出す。相手が選ぶだけで決まる形にしておく。
会うより先に声を聞きたいなら、その前にこれ。
「一回だけ、十分くらい電話で話してみませんか。声を聞いてからのほうが、お互い安心かなと」
断られたら、誘わなくても二か月後に消えていた相手だったというだけ。
途切れた相手への、一通だけの台本
少なくとも三日は置く。
「最近どうですか。お仕事落ち着いたら、またサウナの話聞かせてください」
送ったら、その相手のトークは閉じる。返ってきたら再開、来なければ次へ。
アヤはあの後、その彼とのやり取りを自分から止めて、別の相手と二週間目に会った。ダイキは九人のうち三人と会って、一人と続いている。
続いたか続かなかったかは、どちらもただの途中経過だったんだよね。

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