ショート動画の企画会議が終わったあと、二十代半ばの知人に雑談として話を聞かせてもらった。十二歳上の人と付き合っている子、こう言ったんだよね。
親には言ってない、って。
そのあと十秒くらい、誰も何もしゃべらなかった。エアコンの音だけが部屋に残ってた。
誰にも聞けない
友達に言えば引かれるかもしれない。親に言えば揉める。職場では絶対に出せない。相談先がゼロになって一人で悩む。
一番言えないのは、自分の気持ちを自分で疑ってること
年上の人にホッとする。守られてる感じがある。でもふとした瞬間に、ざわっとくるんだよね。
これ、恋なのかな。それとも私、父親がほしいだけなのかな。
自分の感情が本物かどうかを疑う状態って、けっこうしんどい。誰に相談しても、好きなら好きでいいじゃんで終わっちゃうから。終わらないんだよ、本人の中では。
年上に惹かれる理由を分解してみる
家庭環境の話に行く前に、そもそも何が心地いいのかを見ておきたい。
ジャッジされない時間が単純に楽
二十八歳の知人が言ってた話。同い年の彼氏といたころは、返信の速さも、服も、体型も、全部が採点されてる感じがしたって。年上の人と会うようになってから、ご飯を食べるスピードを気にしなくなったらしい。
好かれてるかどうかを毎分チェックしなくていい。それだけで肩の力が抜ける人はいる。
予測できる相手だと、呼吸が浅くならない
急に不機嫌にならない。約束の時間を守る。金銭の話でパニックにならない。この安定を落ち着きと呼ぶけど、体感としてはもっと即物的なんだよね。
心臓がドクドクしない時間が続く、っていう感覚。
家の中が不安定だった人ほど、この静けさに強く反応する。次に何が起きるか読める相手は、それだけで安全な場所になるから。
会話の速度が合ってしまう
昔から本を読む子だった、家の事情で早く大人にならざるを得なかった、そういう背景があると同年代の話題が薄く感じられることがある。これは相手を見下してるわけじゃなくて、単にチューニングの問題。
好みとしての年上と、逃げとしての年上
ここが分かれ目。
年上が好き、というのは選ぶ側の言葉。同年代が怖い、というのは避ける側の言葉。本人はほぼ全員、前者だと思ってる。でも話を三十分聞くと、後半で必ず同年代のエピソードが出てくるんだよね。しかも嫌な記憶のほう。
家庭環境はどこまで関係しているのか
父親不在よりも、情緒的な不在のほう
離婚とか単身赴任みたいなわかりやすい不在だけが効くわけじゃない。むしろ話を聞いてて多かったのは、父親は家にいたパターン。
いたけど、テレビの前から動かなかった。いたけど、成績の話しかしなかった。いたけど、こっちの機嫌を一度も聞かなかった。
物理的にはいる。情緒的にはいない。この状態で育つと、大人の男性から向けられる関心そのものが、強い刺激になることがある。
見落とされがちなのは、母親のほう
父親の話ばかり語られるけど、企画のリサーチで一番ハッとしたのはこっち。
母が父をどう扱っていたか。娘に夫の愚痴を流していたか。男なんてどうせ、と何度言ったか。
三十歳の知人は、母から二十年ぶん父の悪口を聞いて育った。彼女が言うにはこう。同い年の男の子を見ると、母の声で再生されるらしい。どうせこいつも何もしないよ、って。
年上の人にだけそれが起きなかった。理由は本人にもわからないと言ってたけど、たぶん母の言葉が届く射程の外にいたんだと思う。
断定してくる記事は、たぶん急ぎすぎてる
父親との関係と恋愛の好みに関連があるという報告はある。ただ、因果まで言い切れる段階にはない。きょうだいや双子を比べた研究では関連が弱まるものもあるし、家庭環境がまったく普通でも年上を好きになる人は普通にいる。
落ち着いてる。話が通じる。生活が安定してる。理由としてこれで足りるケースだって多い。
原因ですと言い切られると、自分の恋がまるごと症状に見えてくる。あれ、けっこう人を傷つけるんだよね。
同年代を好きになれない、という裏側
好みだと思ってたものが、回避だったとき
二十四歳の子の話。年上しか無理です、と最初は言っていた。企画のネタとして深掘りしていったら、高校のときの話が出てきた。
教室で笑われた記憶。告白したことを言いふらされた記憶。名前を出した瞬間、彼女の指がスカートの裾をぎゅっと握った。
年上が好きなんじゃなくて、同年代の場所に戻りたくなかった。本人がそれに気づいたのは、その日の帰り道だったらしい。
同年代が怖くなる背景
競争にさらされ続けた記憶。からかいの対象にされた記憶。まだ何者でもない相手を見ていると、自分の不安が映って見えること。それから、同い年の男の子といると自分が対等に扱われすぎて落ち着かない、というパターンもあった。
守られる側に固定されてるほうが楽、という感覚。これを認めるのは、けっこう勇気がいる。
で、それは治すものなのか
治さなくていい。ただし、選択肢がひとつしかない状態は、ちょっと危ない。
年上しか無理だと自分に言い聞かせてると、目の前の年上の人が多少おかしくても比較対象がいない。ここを別れないんじゃなくて別れられないに変えてしまうから。
立ち止まったほうがいいサイン
相手が既婚。これは恋の悩みじゃなくて別の問題になる。ここだけは冷たく書いておく。
金銭や立場の差が、意見の差を潰していないか。年齢と経験と収入が全部向こうに寄っている関係では、主導権がどっちにあるか本人が気づきにくい。奢られる回数じゃなくて、行き先を決めるのが誰かで見るといい。
友達に会う予定を出したとき、相手の返事がどうなるか。渋る、遅らせる、機嫌が落ちる。これが続くなら関係の外側が細くなってる。孤立させてから支配が始まるのは、恋愛でも他の場面でも同じ順番。
それと、こっちが十代のうちに近づいてくる年上の大人については、好みの問題として扱わないでほしい。年齢差そのものより、判断材料の差を利用されるかどうかが問題だから。家庭のことで安全に関わる話が出てきたときは、公的な相談窓口のほうが役に立つ。こころの健康相談統一ダイヤルみたいな無料の窓口が各自治体にある。
今日やるぶんの台本
読んで終わりだと何も動かないので、実際に使える三本を置いておく。
一本目、ひとりで録る三分の独白
スマホのボイスメモを開いて、誰にも聞かせない前提で三分喋る。台本はこれ。
もし相手が私と同い年だったら、私はこの人を好きになってたと思う?
理由を三つ言ってみて。
そのうち、相手じゃなくて自分の安心の話になってるのはどれ?
再生し直すと、自分の声のトーンが変わる場所がわかる。そこが痛いところ。
二本目、相手に投げる一行
大きな話し合いはいらない。ご飯のあと、これだけ。
来月さ、私の友達と三人でご飯行くのどう?
相手の反応を見るための一行。行こうと言うか、予定を聞くか、いい顔をしないか。返事の中身より、返ってくるまでの空気を見ておく。
三本目、一週間の観察メモ
毎晩ひとことだけ残す。今日、自分の意見を言えた回数。ゼロなら数字だけ書けばいい。
七日ぶん並べると、けっこう残酷にわかる。ゼロが五日以上並んだら、その関係では自分の声が小さくなってる。
年上を好きになること自体に問題はない。
見るべきは相手の年齢じゃなくて、その関係の中で自分が縮んでいないかどうか。父親との記憶が影響していたとしても、それは弱点じゃなくて、自分の反応の癖を先に知っているというだけの話だからね。

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