三回目のデートの帰り道に、その一言が来た
恋愛系のショート動画のネタを探して人の話を聞き回ってた去年の秋、知人づてに会った26歳の女性から、こんな話を聞いた。
アプリで知り合った相手との三回目のデート。改札の手前で、彼がスマホをポケットにしまいながら言ったらしい。お試しで付き合ってみない、と。
彼女はその場で笑って、いいよ、と返したが、、、帰りの電車。吊り革を握る手のひらが、じっとり湿っていたのを覚えているそうだ。
お試し交際は何なのか。仮交際やデーティングと何が違うのか
期間を区切って、判定してから正式に付き合う
やっていることは単純。好意が固まりきらない状態で、期間を決めて恋人のように過ごす。合いそうなら正式交際。合わなければ終了。
一般の恋愛でのお試し期間は、1ヶ月から2ヶ月あたりが目安とされる。結婚相談所の仮交際も似た構造で、こちらは最長3ヶ月あたりで区切る。
ただし、この二つは似て非なるもの。
結婚相談所の仮交際には、他の人と並行して会っていいというルールがあり、期限が決められていて、仲人が間に入る。制度として組み上がっている。曖昧さが入り込む隙間が、設計の段階でふさがれてるわけ。
一方、街で始まる恋愛のお試しには、何もない。期間の合意もない。審判もいない。終わりの日を、誰も決めていない。だから宙ぶらりんになる。
なぜ今、お試しが増えたのか
アプリを開けば、候補が無限に並んでいるように見える。
この人でいいのかな。もっと合う人がいるんじゃないか。 選べる数が増えたのに、決めきれる人は減った。
そこへ、別れのしんどさを前払いで避けたいという計算が乗る。付き合ってしまえば、終わらせるのに体力がいる。だったら最初から降り口を作っておこう、と。
恋愛にも無料お試し期間を、という発想(笑)。笑いごとにしたいけど、実際そうなってる。
お試しと言った側の頭の中
言った側にも話を聞いた。出てきた本音は、きれいに五つに割れる。
一つ目は、素直に分からない人。好きかどうか自分でも掴めていない。だから確かめたい。悪意はない。むしろ誠実な部類。
二つ目が、保険をかけている人。まっすぐ告白して断られるのが怖い。お試しなら、断られる確率が下がる。逃げてるだけなんだけどね。
三つ目。他にも会っている相手がいて、決めきれない。とりあえず全員の席を空けておく。これはもうキープ。
四つ目は、体の関係が先にある人。言うまでもない。
五つ目が、意外と多かった。友達期間が長すぎて、告白の言葉が喉から出てこない。だから緩衝材としてお試しを挟む。25歳の男性が言っていた。三年友達やってて、今さら好きですって言えないっしょ、と。
どれなのかは、期間を聞けば分かる
見分ける方法は一つしかない。
期間を聞く。
一ヶ月、と即答してくる相手は、少なくとも考えている。期限を切るつもりがある。 まあ流れで、とぼかす相手は、決めるつもりがない。決めないほうが得だから。 他の人とも会うけどいい?と言ってくる相手は、こちらの席を控え室に置いている。正直に見えて、立場は最下位。
一問で、五つのうちどれかが絞れる。
お試しで付き合うと、実際に何が起きるか
好意ゼロから、加点で相手を見られる
これは本当にある。
リサーチで会った28歳の男性は、職場の飲み会で知り合った女性に、一ヶ月だけ試させてほしいと言われた側だった。恋愛感情はゼロ。断る理由もなかった。
三回目に一緒にラーメンを食べた日。彼女がスープを一滴もこぼさず完食したのを見て、なぜか胸がざわついたらしい。今、二人は三年目。
好きから始まらない関係が、好きに変わることはある。ここは否定できない。
別れの痛みが減るというのは、半分だけ本当
お試しなら傷つかずに済む。よく聞く理屈。
だけど話を集めていくと、減っているのは痛みじゃない。切り出す側の罪悪感なんだよね。お試しだったから、で片付く。終わらせる側は、楽になる。
終わらされる側は、普通に痛い。試された上で要らないと言われた分、通常の失恋より深く刺さることさえある。不合格の通知みたいでさ。
体の関係をどうするかは、道徳ではなく設計の問題
正式な恋人になるまでは持つな、と多くの記事が書く。理屈は分かる。ただ根拠が説教くさくて、腹に落ちない。
お試しは、両方に終わらせる権利がある関係。そこへ体の関係が入ると、終わらせるコストが片方だけ跳ね上がる。感情の重心が傾くから。軽く終われるはずの関係が、軽く終われなくなる。
期間を決めないお試しは、キープと見分けがつかない
線を引いておく。
お試しとキープの違いは、終わりの日が決まっているかどうか。その一点。
期間の話が出ないまま、恋人っぽい時間だけが積み上がる。連絡は来る。デートもする。名前だけつかない。半年経つ。一年経つ。
リサーチで会った33歳の女性は、二年半、その状態を続けた。相手は月に二回、連絡をくれた。優しかった。一度も彼女と呼ばれなかった。
二年半って、婚活だったら何人に会えたんだろうね。 そう言いながら、氷の溶けたアイスコーヒーをストローでゆっくりかき混ぜていた。
見極めようとするほど、見極められなくなる
お試し期間は相性を測るためにある。誰もがそう言う。僕もそう信じていた。経験者の話をいくつも集めていくうちに、逆のことが起きているのに気づいた。
試されている側は、素を出さない
お試し中の人は、ずっと面接を受けている。
ある29歳の女性の話。お試しの一ヶ月、好きなバンドの話を一度もしなかった。地雷だと思われるのが怖かったから。休日に十二時間寝ることも、部屋が散らかっていることも、全部隠した。
正式に付き合ってから、全部バレた。三ヶ月で終わった。
あの一ヶ月、何を見てたんだろうね。 彼女はそう言って、少し笑った。
そりゃそうだ。品定めされている自覚がある人間は、よそ行きの顔しか出さない。測れるのは、演技した相手の性能だけ。
逃げ道があると、人は本気で近づかない
人は、好きだから付き合う。付き合ったから好きになる、という順路も同じくらい太い。
一緒に過ごす。相手のために時間を使う。約束を守る。その積み重ねが、後から気持ちを連れてくる。
お試しは、この道を最初から塞いでいる。いつでも降りられる電車で、腰を落ち着ける人はいない。ずっと浮いたまま。
採点しながら、人を好きにはなれない
評価する目と、のめり込む目は、同時には開かない。
ここ良かった、ここは減点。そうやって採点しながら誰かを好きになった経験、ある? たぶんない。
チェックリストを持って向き合うほど、相手はデータになる。人じゃなくなっていく。
だから、観察するのは相手じゃない
お試し期間に見るものを、一つに絞ってほしい。
その人といるときの、自分。
会った後、家に帰って何をしているか。ソファに沈んで動けないのか、次に行きたい店を調べているのか。 通知が鳴った瞬間、胃のあたりがキュッとなる? それとも口角が上がる? その人の前で、自分の話し方は変わってない?
相手の年収や趣味は、三回のデートじゃ分からない。でも、その人といるときの自分の体の反応は、嘘をつかないんだよね。ここだけは、お試しでも正確に測れる。
言われた時の返事。選択肢は二つじゃない
YESかNOで迷っている時点で、立場が下になっている
お試しで付き合おうと言われた人は、受けるか断るかの二択で頭を抱える。
三つ目がある。
条件交渉。
言ってきた側は、たいてい何も決めずに投げてきている。期間も。会う頻度も。体の関係も。他の人と会うかどうかも。
そこを、こちらから設計していい。というより、しないと危ない。
決めるのは五つ。いつまでにするか。その間に他の人と会うのはアリか。体の関係はどこまでか。終わる時、どう終わらせるか。何をもって続けると判断するか。
これを先に握るだけで、審査される側から、条件を決める側へ立ち位置が変わる。
返事の台本
そのまま使えるように、台本の形で置いておく。
好意があるなら、こう返す。
ちゃんと考えたいから、先に確認させて。 期間はどれくらいで考えてる? その間、他の人とも会うつもりある? 一ヶ月なら一ヶ月って決めて、その間は二人だけにしたい。 それでよければ、やってみたい。
気持ちが追いついていないなら。
正直まだ分かってない。だからお試しって形は、ありがたいかも。 ただ、なんとなく続くのは無理。 一ヶ月後の同じ日に、続けるか終わるか、お互い言葉にする。それは約束できる?
断るなら。
声をかけてくれてありがとう。 でも、お試しって形だと自分がしんどくなるのが見えるから、ごめん。 普通に何回か会って、それで決めたい。
恋愛として考えられないなら。
ありがとう。でも恋愛としては見られないから、お試しでも難しい。 ごめんね。
受けてはいけないお試し
期間を聞いてもはぐらかされる。他の人とも会うと言われる。最初の週に体の関係を持ちたがる。
このどれかが出たら、それはお試しじゃない。名前を変えただけのキープ。
今日からやること
返事は、その場でしなくていい。
考えたいから明日まで待って。 そう言うだけで、主導権は半分こっちに戻る。断られたと勘違いして逃げる相手なら、そこで分かるしね。
そのうえで、メモでいいから五つの条件を書き出す。期間、頻度、他の人、体の関係、終わり方。自分がどこまでなら耐えられるのか、先に決めておく。決めていないから、流される。
お試しが始まったら、会った日の夜に一行だけ記録をつける。今日の自分は何点だったか。相手じゃなく、自分。
期間の最終日。ここは絶対に流さない。
今日で一ヶ月だね。こう思ってるんだけど、そっちはどう?
この一言が言えるかどうかで、その関係が恋愛になるか、ただ消費されて終わるかが分かれる。
お試しという言葉に胸がざらついたなら、その感覚は正しい。人は本来、試されるために誰かの前に立つわけじゃない。ただ、その言葉を選んでしまうほど、相手も自分の気持ちを掴みかねている可能性はある。
条件を出すのは、わがままじゃないよ。二人で決めるという行為そのものが、その人が一緒に何かを作れる相手なのかどうかを、いちばん早く教えてくれる。

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